介護保険サービスの利用者負担の見直し(その2)

2014/10/14


株式会社立地評価研究所 東京本社 小田 隆博

弊社が病院をはじめとしたヘルスケア施設流動化の研究を始めて約5年が経過しましたが、当時とこの一年を比較しますと、今の注目度の高さは隔世の感があります。

つい最近も大型のヘルスケア施設の取引が行われるなどヘルスケア市場の成熟化は急速に進んできており、現在の状況は確実に1段階ステージが上がってきているといえましょう。

さすがに法制度や施設の特徴などヘルスケアの基礎情報については、もう十分周知されてきているように思われます。

これからのステージでは、キャッシュフローに影響を及ぼすと思われる制度改正の動向が必須情報となりますので、当ブログではこの点にフォーカスして専門情報の発信を続けてまいります。

 

今回は、鑑定評価の依頼で最も多い介護付有料老人ホーム(特定施設)を評価対象とし、一定以上所得者を2割負担とした場合の影響を、不動産鑑定評価の立場からみてみたいと思います。

まず、介護施設等のいわゆるオペレーショナルアセット(事業用不動産)については、土地・建物等の物的な側面ならず、その不動産でどのような事業を行うかというソフト面の相違により得られる収益性が大きく異なるという性格を有しています。具体的には、当該不動産で事業を営む事業者が、将来に亘って安定的に事業を継続でき、かつ、安定的に賃料を支払うことが出来るかといった考察が特に重要となってきます。

介護事業者が支払う賃料の原資は、GOP(固定費控除前、減価償却費等不動産関連経費控除前の営業利益)であり、売上については介護保険収入が大きな柱となっています。施設側の介護保険収入は、利用者の自己負担額+介護保険収入となり、理論的には、入居者の異動がないという一定条件の下では、利用者の自己負担割合の変更によって、施設側の介護保険収入は影響を受けず、施設運営上は何ら影響を受けないことになります。

では、実際に影響がないといえるのでしょうか?

ここでは、現行の介護報酬地域単価で、最も自己負担割合の大きい1級地(東京23区 (特別区))と最も自己負担割合の小さいその他(1~6級地以外)における一定以上所得者を2割負担とした場合の自己負担額の変化を見てみます。

 

その2表1-640x233

※.2割負担で、高額介護サービス費利用者負担限度額に達した場合は、月額37,200円とした。

その2表2-640x176

 

上記のように、利用者側からは、軽度の要介護者(要介護1・2)で年額約20~22万円、中重度の要介護者(要介護3以上)で約12~19万円の負担増となり、年金収入のみの高齢者世帯では、決して無視できない負担増といえます。

「一定以上の所得がある人」に該当するのは、被保険者の上位20%程度と試算されていることから、全ての入居者が上記のような負担増とならないものの、月額利用料(家賃相当額・管理費・食費等)がエリア内において相対的に高い施設については、他施設への転居に伴う退去者数の増加等の影響も懸念されます。

さらに、2014(平成26)年4月1日以降、70歳になる人については、医療保険の自己負担が2割(現役並所得者については既に3割)となっており、相対的な介護保険サービス利用控えを助長する要因となることも考えられます。

また、2割負担者のうち、軽度の要介護者ほど、自己負担額が大きくなることから、軽度の要介護者は施設・居住系サービス利用を控え、在宅サービス利用へとシフトしていくことも予測されます。

このようなことから、鑑定評価においても、エリア内の所得水準、対象施設の月額利用料等の水準のほか、対象施設入居者の要介護度に応じた所得水準の確認等を行いながら、その事業者の支払う賃料が将来に亘って負担可能なのかを検証することも必要となりそうです。