「認定医療法人」の税制措置について

2014/11/5


株式会社立地評価研究所 大阪本社 芳賀 美紀子

2014年10月1日より認定医療法人制度が始まりました。認定医療法人とは「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律に規定される移行計画について、認定制度の施行の日から3年以内に厚生労働大臣の認定を受けた医療法人」とされています。認定医療法人を受けることにより「持分あり医療法人」の相続人が持分ありの医療法人の持分を相続または遺贈により取得した場合、①相続税の申告期限までに認定医療法人に該当し②納税猶予額相当の担保を提供した場合には、その出資持分に対する相続税の納税が猶予され、持分を放棄した場合には猶予税額が免除されるものです。厚生労働省はこの制度を平成26年10月1日から平成29年9月30日の3年間に限定とし、持分なし医療法人への移行を促進する方針です。そもそもなぜこのような制度に至ったのでしょうか。

 

① 制度の背景

医療法人は医療法を規定として設立された法人です。根拠法となる医療法は非営利原則に基づき医療法第54条により剰余金の配当が禁止されています。一方で、我が国の殆どの法人類型である持分の定めのある医療法人社団の出資者が退社した場合には、当初出資した金額だけでなく医療経営の中で増加した利益留保分の払戻請求をすることが可能でした。また解散時の残余財産を出資者に分配されることも禁止されていませんでした。

結果として、出資者は毎期継続した配当をうけることが出来ない代わりに、解散や退社時点に剰余金部分を得ることができ、結果的に配当金をまとめて得ることと変わらないことから、医療法人の非営利性との矛盾が指摘されていました。

そこで平成19年に施行された第5次医療法改正により解散時の残余財産の帰属先は「国、若しくは地方公共団体又は医療法人その他の医療を提供する者であって厚生労働省令で定めるもの」と変更になり、これ以降、持分あり医療法人は設立できなくなりました。

この制度改正により第5次医療法改正時には全医療法人の98.1%を占めていた持分あり医療法人が平成26年には83.1%へと下がり一定の効果は上がっていますが、依然として持分あり医療法人がわが国の大半を占めている状況に変わりはありません。

② 持分あり医療法人のリスク

上記のように医療法人は長年の経営によって配当出来ない剰余金が多額になることから、持分の払戻請求権が行使された場合の払戻額が多額になります。出資社員の死亡により相続税が課税される際にはよりリスクが高くなります。相続時の納税資金の確保が困難となり医療法人の事業承継の大きな障害となっていました。今回の制度はこの問題を解消すべく設置されたものです。

③ 課題

当該制度はまだ始まったばかりですが、既に以下の点が指摘されています。

定款変更により「持分あり医療法人」から「持分なし医療法人」に移行した場合、一定の要件(特定医療法人若しくは社会医療法人と同程度の要件)を満たさない場合には、医療法人を個人とみなして、持分放棄に伴う価値移転部分に対して医療法人に贈与税が課されてしまいます。また一旦持分なしの医療法人へ移行すると、持分ありの医療法人へ戻ることが認められていません。

また「同族経営を維持したい」「相続税を支払っても子孫に承継したい」と考えている医療法人が多くあることや、制度そのものが3年間の限定となっていることから、この制度により持分なし医療法人への移行がスムーズに進むかどうかは現時点では不明です。

 

※参考URL

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/ikoutebiki.html