2025.05.08
コラム
レポート
不動産鑑定に関する書籍について
昨年11月に逝去しました弊社会長若崎ですが、令和7年4月24日に「偲ぶ会」を開催し、改めて故人が多くの方々に恵まれていたことを実感いたしました。
若崎は、会長職就任後も知識、経験を伝えるべく会社に尽力し、就任したばかりで不安と情熱が入り混じる私たちを指導していただき感謝する反面、社長退任後まもなく旅立つこととなったことから、家族でゆっくり過ごすために時間を使ってもらえなかったことが、心苦しくもあります。今後は、故人の遺志を受け継ぎながら、より一層精進し、未来へ繋げていく所存です。
さて、生前に若崎が不動産鑑定評価に関連する書籍について紹介しておりましたので、ここに掲載させていただきます。ご興味がある方は是非ご参考ください。
大阪本社 吉田 智範
街づくり×商業-リアルメリットを極める方法-
松本大地著 学芸出版 定価2,200円+税
1. 著者のプロフィール
著者は、長年丹青社で商業開発のプランナーとして活躍し、2007年に「人と街と商いの良好なリンケージ」を掲げて商い創造研究所を設立。さらに2018年には賑わい創研を立ち上げ、ショッピングセンター開発や公共プロジェクトに多岐にわたって取り組んでいます。
また、2006年には弊社の研究誌「立地研究Vol.24」に「ショッピングセンターと街づくり開発-最先端事例から次世代商業開発を探る-」というテーマで寄稿されています。
2. 本書の概要
本書は、著者が携わってきたさまざまなリアル店舗の開発に基づき、再開発、郊外の地域共生型SC、地方都市の複合施設、商店街プロジェクト、さらに多文化・多様性に注目されるメルボルンの「街づくり×商業」に関する実際の事例を紹介しています。次世代に向けた商業開発や街づくりについて詳述されており、豊富な事例が盛り込まれていますが、その詳細はぜひ一読をおすすめします。
3. 不動産鑑定士の視点で参考になること
本書はエリア価値や街づくりに重点を置いていますが、我々不動産鑑定士が鑑定評価の対象とするのは、単体の商業施設です。
不動産鑑定評価のテクニカルな観点から言えば、収益法を用いて商業施設の評価を行う際、売上高や家賃に基づく収支の予測は、テナントの入れ替えや改修の実施に基づく楽観的・悲観的シナリオを想定して決定されます。しかし、評価対象の商業施設はエリアの影響を受けるため、クローズドな施設は実際には存在しません。本書の冒頭で指摘されているように、小売業は「変化対応業」であり、バリューアップや業態転換などの可能性も含め、多様な視点を考慮し、収支予測のシナリオやキャップレートに反映させる必要があります。この点は鑑定評価の実務において難しさを感じる部分であり、我々は日々体系化された知見の不足を実感しています。
本書では、これに対して大きな示唆を与えてくれるキーワードが随所に登場し、非常に参考になります。以下にいくつか例示します。
◎シビックプライド
◎ショッピングモールからギャザリングモールへのトレンド
◎コミュニティ型NSC
◎ウォーカブルな街づくり
◎閉じた場から開かれた場へ-心地よい開放性-
◎サステナビリティ、ミクストユース、アートフル、ローカルファースト
また、地方駅前再生の事例としてキーノ和歌山、創造型まちづくりの圧倒的な成功事例であるラゾーナ川崎やあべのキューズモール、寺社空間に商業を導入してイノベーションに成功した築地本願寺など、数多くの事例が紹介されており、この点でも大いに参考になる書籍です。
商業不動産のプレーヤーや不動産鑑定士にとって必読の書と考え、ここに紹介させていただきます。
以上