介護保険サービス・利用者負担の見直し(その1)

2014/10/1


株式会社立地評価研究所 東京本社 小田 隆博

弊社が病院をはじめとしたヘルスケア施設流動化の研究を始めて約5年が経過しましたが、当時とこの1年を比較しますと、今の注目度の高さは隔世の感があります。
つい最近も大型のヘルスケア施設の取引が行われるなどヘルスケア市場の成熟化は急速に進んできており、現在の状況は確実に1段階ステージが上がってきているといえましょう。
さすがに法制度や施設の特徴などヘルスケアの基礎情報については、もう十分周知されてきているように思われます。これからのステージでは、キャッシュフローに影響を及ぼすと思われる制度改正の動向が必須情報となりますので、当ブログではこの点にフォーカスして専門情報の発信を続けてまいります。

今回は、介護保険サービスの利用者負担の見直しについてのご紹介です。

医療法、介護保険法をはじめ19の法案が一括審議された「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための整備に関する法律」(医療介護総合確保推進法)が、2014(平成26)年6月18日可決・成立、同年6月25日に公布されました。今回の一括法による改正は、医療・介護などを含めた社会保障全体の一体改革を推進する流れを示していると言えます。
2000(平成12)年にスタートした介護保険制度は、制度開始時から介護保険サービス利用者の自己負担は原則1割でしたが、今改正により、一定以上の所得がある人に限り、2割へ引き上げられることになりました。
この「一定以上の所得がある人」を具体化すれば、

①無職の単身者世帯(年金収入のみ)で280万円(所得金額160万円+公的年金等基礎控除120万円)以上
②無職の夫婦世帯(年金収入のみ)で夫280万円(単身者と同様)に妻の国民年金(基礎年金)79万円を加えた359万円以上

が該当することになります。該当するのは、被保険者の上位20%で、実際に影響を受けるのは、在宅サービス利用者で15%、特養入所者で5%程度と試算されているようです。
加えて、高額介護サービス費利用者負担限度額が設けられており、当該限度額を超える分は介護保険の給付でカバーされる仕組みとなっています。この高額介護サービス費利用者負担限度額は、一般世帯で月額37,200円(本稿執筆時では、現役並み所得世帯では月額44,200円まで引き上げることが検討されています。)であることから、見直し対象世帯の負担額が全て2倍になるわけではないとされています。

では、一定以上の所得者を2割負担とした場合の影響を国はどのように試算しているのでしょうか?
主なものとして、

①利用者負担が2割となると、在宅サービスについては、軽度者は負担額が2倍となるが、要介護度が上がると高額介護サービス費に該当することで負担の伸びが抑えられる者が多くなる。
②施設・居住系サービスについては、要介護度別の平均費用でみると、ほとんどの入所者が高額介護サービス費に該当することとなって負担の伸びが抑えられる。

としています。

表①②-640x355

次回は、今回の改正が介護施設の鑑定評価に与える影響についてご紹介いたします。