ヘルスケア施設におけるリスク分析

2016/4/1


株式会社立地評価研究所 大阪本社
芳賀 美紀子

1. ヘルスケア施設を取り巻く状況
2.利回り分析
3.ヘルスケア施設オペレータに関わるリスクの把握と評価
4.今後の展望

はじめに
急速な高齢化社会の進展と社会構造の変化により、高齢者単身世帯が増加している現在、子供世帯の介護は期待できず、高齢者向け住宅施設の供給は急務となっている。しかし高齢者向け施設の供給は需要に全く追いついておらず、特別養護老人ホームの入居待ちは40万人を超すと言われている。
増え続ける高齢者のニーズなどから質の高い高齢者用施設の安定供給を目指して国土交通省によるヘルスケアリートの立ち上げが進められている。ヘルスケアリート検討委員会では、リート組成に係るさまざまな問題点が議論されたが、特に投資サイドからは事業特性ゆえの評価手法の難しさが挙げられている。委員会の取りまとめの中でも「福祉、介護サービスに対する第三者評価は一部にあるものの、投資家のオペレータに対する一般的な評価の仕組みは存在しない」ことが課題として挙げられている。施設評価において重要なキャップレートに関しては、明確な根拠がないなかでの相対比較によって算出しているのが現状である。そのためオペレータの運営能力や事業収支について評価する場合に「その評価コストが高くなってしまうことに加え、投資家が評価しきれないオペレータの事業リスクが残るため投資家の求める利回りが高くなる」と検討委員会では指摘している。
検討委員会の指摘の通り、ヘルスケア施設に対するリスク評価の考え方が定まっていない現状では、未知なるリスクに対する投資家の不安がプレミアムに上乗せされる可能性は否定できない。本稿はこのような問題点を解決するため、キャップレートを経験的な算出方法ではなく、客観的な方法で算出するモデルを構築することを試みた。さらに、オペレータに関わるリスクを把握し、評価するための現実的な方向性を提示した。これによって、リスクに見合った利回りの設定と確保が可能となると考えたからである。
小論は、このような事業特性を反映したヘルスケア施設の客観的な利回り算出方法およびオペレーションリスク等の把握方法について、株式会社立地評価研究所と早稲田大学創造理工学部経営システム工学科大野研究室とで行った共同研究の成果として「不動産証券化ジャーナル2013年9・10月号に掲載された論文に一部加筆したものである。
なお、ヘルスケア施設に対する明確な定義はないが、本稿では有料老人ホームに焦点を絞って検討を行っている。

PDFを開く